気になる内臓脂肪を減らす6つの方法

内科医として減量指導を行い、多くの患者をダイエット成功に導いてきた工藤孝文さんは、これまで常識とされてきた食事制限や運動ではなく、生活習慣やホルモンバランスの改善を重視します。その効果で、年とともに増えやすくなる内臓脂肪を減らすことができるそうです

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臓器の能力が基礎代謝量に影響する

2015年にダイエット外来を開設して以来、毎日200人以上の方を診察しています。患者さんの大半は3060代の女性。年を重ねるにつれて太りやすくなり、「何をやっても痩せない!」と、口を揃えて訴えます。

では、なぜ太りやすくなってしまうのか。その理由は大きく2つあります。1つ目が基礎代謝量の低下。2つ目が、女性は女性ホルモン、男性は筋肉量の減少です。加齢によってこれらが少なくなることで、本来ならば消費されるはずのカロリーが余り、脂肪に変わってしまうのです。

基礎代謝とは、じっとしている状態で消費されるエネルギーのこと。人間が1日に消費するエネルギーのうち、7割以上を占めています。一般に、基礎代謝量が減るのは筋肉の量が減るからと思われがちですが、実は、より大きな影響を与えているのは臓器の能力なのです。加齢とともに細胞の再生能力が衰え、心臓、肝臓、すい臓などすべての臓器の代謝能力が落ちる。すると、摂取したカロリーを消費する力も失われてしまいます。

基礎代謝量が減るうえに、女性の場合は更年期を境に、女性ホルモンが急激に減少。その結果、脳内物質のセロトニンやドーパミンも分泌されにくくなります。セロトニンはストレスに対して効能がある「幸せホルモン」。ドーパミンはやる気を起こすため、「快楽ホルモン」と呼ばれます。理由もなくイライラしたり、不安を感じたり、鬱っぽくなってしまう方は、両者が不足している状態です。

手っ取り早く分泌量を増やす方法はあります。それは、糖質や脂質を摂ること。チョコレートなどは糖と脂でできているので、セロトニンやドーパミンを増やすにはうってつけです。適度に摂るぶんにはいいのですが、つい「もう1つ」と手が伸びてしまいがち。すると肥満の原因となりますから、要注意です。

ストレスやイライラを解消しようとして、糖質や脂質が欲しくなる。その衝動を、僕は「フェイク(偽)食欲」と呼んでいます。13度の食事でお腹は十分に満たされているはずなのに、セロトニンやドーパミンが足りていないから「満たされていない」と感じる。そして摂り過ぎたカロリーが余分な脂肪として体にどんどん蓄積されていき、結果として太ってしまう、というわけです。

肉がつまみづらいと、内臓脂肪が蓄積されている

ですが、ひとくちに脂肪と言っても、すべての脂肪が健康に悪いわけではありません。実は、ある程度の量の皮下脂肪はあったほうがいい。BMI(体格指数)数値が18.5未満の「やせ体形」よりも、2324.9の「ちょいポチャ体形」のほうが長生きするという説が、近頃では常識になっています。なぜかと言えば、皮下脂肪には断熱材の役目があり、体の熱を保ってくれるから。人間の体は、36度以上の体温で正常に機能するようにできています。体温が上がって血流がよくなると、免疫力も高まり、病気にもかかりにくくなるのです。

それに対して、内臓脂肪が増えるのは百害あって一利なし。内臓の周りや腸間膜につく内臓脂肪が増えると、体に害を及ぼすホルモンも増加。血糖値やコレステロール値、血圧が上昇し、糖尿病、高血圧、脂質異常症などの原因に。また、動脈硬化も進むため、心筋梗塞や脳梗塞、肝硬変を発症する危険も高くなってしまうのです。

では、目に見えない内臓脂肪の量をどうやって判断すればいいのでしょうか。もっとも手軽なのは、立った状態でおへそ周りをつまんでみること。「手足が細いわりにお腹がぽっこり出ている」方は要注意。肉がつまみづらいと、内臓脂肪が蓄積されていることになります。

そして、一度きちんとメジャーで計測しましょう。メジャーを当てる位置は、おへその高さ。息を吸って吐いた後に、背中や腰に対して水平になるように巻き付けて測ると、正確な数値がわかります。女性の場合、腹囲が90センチ以上の方は危険信号(厚生労働省のメタボリックシンドロームの診断基準に基づく)。このあとご紹介する内臓脂肪を減らす方法を行ってください。

内臓に脂肪がつくと……

「食事制限」と「適度な運動」だけでは減らない

危険な生活習慣病の原因となる内臓脂肪はやっかいな存在ですが、実は、増えやすいぶん、減りやすくもあります。つまり、体重を減らしていけば、皮下脂肪よりも先にまず内臓脂肪から減っていく。痩せれば、自ずと内臓脂肪が減っていくわけですね。

では、どうすれば内臓脂肪を減らすことができるのか。それをお教えするのが僕の仕事でもあるわけですが、ダイエットの常識と言われる「食事制限」と「適度な運動」だけではなかなか減りません。

摂取カロリーを減らす「食事制限」はつらいもの。ゆるい制限ならばまだしも、減量となるとそこそこハードなものになり、鉄の意志がなければ長くは続けられません。そして、運動で痩せようとするのも、非常に効率が悪いのです。脂肪を1キロ燃焼させるためには、7200キロカロリーを消費しなければなりません。運動だけで1キロ痩せようとすると、42.195キロのフルマラソンを約2回完走する計算に。とうてい無理だと思いませんか?

もちろん、体を動かすことで筋肉量が増えて基礎代謝量も上がるので、運動すること自体はいいことです。でも、「運動すれば痩せる」とか「運動不足だから太ってしまった」と安易に考えるのは誤りだと知っておきましょう。

実は、僕自身もかなり太っていた時期がありました。救急病院に勤務していた時代、あまりの激務とストレスで体重が92キロまで増えてしまって……。そこで編み出したのが、日常生活で気軽にできる食習慣や生活習慣を取り入れ、太りにくい体質に変える方法です。そのおかげで、10ヵ月で25キロの減量に成功。ここ4年ほど、ほとんど運動はしていませんが、現在も身長178センチで68キロの体重をキープしています。

この方法は、『婦人公論』読者世代にもおすすめです。内臓脂肪を確実に減らし、しかもストレスが溜まりにくい痩せ方をお教えしますので、ぜひ参考にしてください。

内臓脂肪を減らす食&生活習慣

内臓脂肪は日々のちょっとした行動を変えるだけで、確実に落とすことができます。以下の6つの習慣を今日から取り入れてみましょう。

【1】肉から食べるミート・ファースト

たんぱく質は、筋肉や皮膚、臓器などを構成する細胞の原材料となります。野菜を先に食べる「ベジ・ファースト」が有名ですが、食が細くなると野菜だけで満腹になり、たんぱく質が不足してしまうことも。

私が推奨しているのは、「ミート・ファースト」。肉野菜炭水化物の順番で食べるというもので、脳の食欲中枢に作用して食欲を抑える効果があり、《やせホルモン》のGLP‐1が分泌されやすくなります。肉は腹持ちがよいので間食を防ぐことができますし、血糖値が上がりづらく脂肪が蓄積されにくいのです。

とくに脂肪を燃焼させる働きをするアミノ酸の一種、L‐カルニチンが含まれている牛の赤身肉は、良質なたんぱく質。内臓に脂肪がつきにくいですよ。

 

【2】空腹をしっかり感じる

体内でエネルギーを作り出す役割を担うミトコンドリアは、食事で得た脂肪や糖を空腹時に燃焼する「工場」のような働きをします。つまり、きちんと空腹を感じてから食事をすれば、食べたものが効率よく消化・燃焼されていくわけです。ここで燃え切らないと、糖や脂肪は内臓脂肪の材料となってしまいます。

女性は家族の都合に合わせて食事を摂らなければならないことが多く、食事時間のコントロールは難しいかもしれません。まずは日々の食事の量とその時感じている空腹の度合いをノートに記録して、13回の食事どきにきちんとお腹が空く状態になるよう、逆算して食べる量や内容を調整していきましょう。

3食の時間をある程度一定にすることも大切です。時間がまちまちだと、体内時計がおかしくなって食欲中枢に悪影響を及ぼし、空腹感がわかりにくくなります。

【3】フェイク食欲を抑える

空腹感はないのに食べたくなってしまう「フェイク食欲」。内臓脂肪を減らすためには、これを抑えるのが最優先です。僕が実践して一番効果があったと感じたのは、和食に欠かせない「うまみ成分」を摂ること。かつお節に含まれるヒスチジンには食欲抑制効果があり、トリプトファンはセロトニンを作る材料に。また亜鉛には舌にある味蕾の細胞の新陳代謝を促し、味覚をリセットする働きがあります。

糖分や濃い味を好む「デブ味覚」の持ち主の人も、うまみ食材を摂り続けることで、薄味でローカロリーなものでも満足できるようになるのです。

あわせて、緑茶と昆布茶を飲むといいでしょう。緑茶に含まれる茶カテキンを継続的に摂ると、内臓脂肪が減少することが報告されています。昆布茶に含まれるアルギン酸やフコイダンにはイライラと食欲を抑える効果が。患者さんには、水筒に入れてこまめに飲むことをおすすめしています。

【4】最低でも7時間は眠る

「なかなか痩せられません」という患者さんには、眠りが浅い、睡眠時間が不足しているなどの問題が生じていることが多いようです。眠りの質が落ちると、食欲をアップさせるホルモン(グレリン)が過剰に分泌され、食欲を抑えるホルモン(レプチン)が減少します。そのため食欲が湧きやすくなり、過食の原因に。

理想は、毎日最低でも7時間の睡眠時間を確保すること。小分けで取って「合計7時間」を目指すのでもかまいません。良質な睡眠をしっかり取るほど体脂肪が減りやすくなる、という研究もあります。

「日の出とともに起きて、日が沈んだら休む」とよく言われますが、これは理にかなっていて、人間の体がもっともよく活動できる生活サイクルなのです。夜11時頃までには眠りについて、朝7時までには起床する生活を目指しましょう。

【5】日常生活でカロリーを消費

ダイエットのためにジムに通い、運動をしている方は多いでしょう。でも実は、数時間運動しても、1日に消費されるカロリー全体のわずか5%程度しか消費できません。それよりも、1日のうち2535%を占めるNEATを増やしたほうが、ずっと効率よく痩せられます。NEATとは「日常生活の活動で消費されるカロリー」のこと。

ふだんの動作をちょっと工夫するだけで、「高NEAT」にすることができます。たとえば、背筋をピンと伸ばして歯磨きをする。まめに立ち上がる機会をつくり、階段の上り下りを増やす。タイマーをかけ、時間内に料理や掃除などの家事をテキパキと行うなど。いくつも組み合わせて行うとなおいいでしょう。

これらの行動をとるだけでも筋肉量が増え、血糖値が上がりづらくなり、内臓脂肪もつきにくくなります。

【6】「さっさか」「ゆっくり」歩きを交互に

内臓脂肪を燃やすには、水泳やウォーキングなどの有酸素運動がおすすめ。手軽にできる方法で効果的なのはインターバル速歩です。インターバル速歩とは、筋肉に負荷をかける「さっさか歩き」と、全身をリラックスさせる「ゆっくり歩き」を3分間ずつ交互に繰り返すウォーキング法。

体重を落として内臓脂肪を減らせるうえに、筋力や骨密度もアップするので、体力に自信のない女性の方にもピッタリです。血糖値を下げてくれる効果も大。正しい姿勢で大股歩きをキープして、118分、週4日を目安に、買い物にでかける際などに、ぜひ習慣にしてください。