歩くスピードがゆっくりになり、痛みを感じて、長距離や長時間の歩行は難しい。「もう60代だし、仕方ないかしら」というのは、もしかしたら“遅すぎる”気づきかもしれない。骨は20代から老化が始まり、50代以降で加速度的に衰える。死ぬまで自分の足で歩くためには、早い段階で「自分の脚と足」についてしっかり知っておくことが何よりも大切なのだ。【前後編の前編】
【グラフ】骨量は20代をピークに減少するということを示すグラフ
脚と足の老化は20代から始まっている
「古希を過ぎ、健康のいちばんの秘訣は愛犬との毎日の散歩。加えて脚の定期健診にも通っています」
2月11日放送の『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に出演し、こう明かしたのは女優の竹下景子(71才)。竹下は「いまの目標は自分の脚で山登りをすること」だと続けた。竹下が、自身の「脚」の変化に気づいたのは約3年前。ひざの痛みを感じ、専門病院を受診したという。そこで明らかになったのは、「すでに骨粗しょう症予備軍である」という衝撃的事実だった。しかし、これは決して珍しいケースではない。自分では気づいていないだけで、人知れず脚は悲鳴を上げ続けているのかもしれない。
柔道整復師でアスリートゴリラ鍼灸接骨院院長の高林孝光さんは、「脚と足の老化は20代から始まっている」と指摘する今すぐはじめる
「人間の筋肉は20才がピーク。運動など何もしなければそこから少しずつ筋肉が落ちていき、筋肉で支えられない分だけ骨や関節へ負担がかかるため、『脚の老化』が始まります。脚は太もものつけ根から下全体を指し、足は足首から先を指しますが、いずれも上半身を支え続けることで負荷は大きい。
とはいえ若い頃は、多少無理をしてもまだ骨がしっかりしているので大きなトラブルは起きにくい。老化がぐっと進行するのは50才前後なので、40代から脚の健康を意識するといいでしょう」
1日に1万回叩きつけられる
日本人女性の平均寿命は約87才、健康寿命は約75才だが、脚の健康寿命はなぜこんなに早く訪れるのか。足の専門医で下北沢病院理事長の久道勝也さんが解説する。
「脚は体でもっとも酷使されている部位です。足には歩くたびに体重の負荷がかかり、1日に5000回、1万回と地面に叩きつけられています。心臓から遠いので血流も悪くなりやすい。人生を最後まで楽しむには、脚の健康寿命を延ばすことが必須ですが、日本では欧米ほどその健康の重要性が意識されていません」
加えて女性は男性に比べて、脚のトラブルが約4倍も多いという。痛みや骨粗しょう症だけでなく、外反母趾や巻き爪など多岐にわたる。足のアーチ(構造)が崩れやすいことも一因だ。
「女性はパンプスなどヒールの高い靴を履く機会が多いので、足に負担がかかってアーチが変形しやすい。妊娠・出産も骨格に大きく影響を与えます。妊娠すると骨盤をゆるめて出産しやすくするために、靭帯をゆるめる女性ホルモン『リラキシン』が分泌されます。この影響で足のアーチも崩れやすくなる。
さらに閉経後は、女性ホルモン『エストロゲン』が低下することで骨が弱くなり、脚のトラブルが表面化しやすくなります」(久道さん・以下同)
こうした脚の老化は、全身に影響を及ぼす。
「脚は老化しやすいだけでなく、全身の不調がいち早く出るところです。脚のトラブルは1か所で起きるのではなく、筋肉と血管の問題が併発するなど、複数の場所が同時に悪くなっていることが多い。脚が悪くなれば運動量が減って、要介護や認知症の発症リスクも高くなります」
脚の痛みは放っておかれる
久道さんは、「脚に痛みが出るのは体の不調のサイン」だと続ける。にもかかわらず、その痛みをスルーしてしまう人は少なくない。痛みが出ている時点で“手遅れ”になっているにもかかわらず、「脚や関節の痛みは老化現象だから受け入れるしかない」と対処しないままにしてしまうのだ。
「例えば、3日間お腹が痛ければ、のんきな人でも病院に行かなきゃダメだと受診しますが、脚の場合だと、1か月や2か月は痛くても放っておかれることがあります」
都内在住の派遣社員、Mさん(45才)もそのひとりだ。
「コロナ禍でジムを退会してからずっと運動不足だったので、階段での昇降運動とランニングを始めたら、ひざが痛くなったんです。
病院に行くと、炎症が起きていて、軟骨がすり減っていると診断されました。一度すり減った軟骨は自然に戻ることはないと医師に言われ、痛みが出る前に、できたことがあったんじゃないかとショックを受けるやら、後悔するやら。ひざの痛みをかばっていたら股関節まで痛み出して歩くのも億劫になってしまいました」
こうした事態を防ぐためにいま推奨されるのか、竹下も受けた「脚と足の健康診断」だ。久道さんのクリニックでは「足の見えるか検診」を行っている。
「いわば人間ドックの足バージョンです。足をひとつの臓器と捉え、皮膚や脂肪、腱、筋肉、血管、神経、骨を、整形外科や皮膚科、形成外科、血管外科など専門的観点から全面的にチェックします。水虫や巻き爪など皮膚や爪のトラブルから、動脈硬化や静脈瘤など血管の異常、足底圧や歩行バランス、足の変形、関節の可動域、骨密度、筋力まで幅広く検査します。
前述の通り、脚のトラブルは1か所だけで起こるのではなく、骨と皮膚のトラブルが一緒になるなど複数の場所で同時に発生していることが多いんです。それを全部診ないと、本当の評価はできません」(久道さん・以下同)
骨や関節、痛みのある部分だけ診ていては、重篤な疾患を招いてしまうこともあるという。
「男女問わず、動脈に不具合があって脚に栄養を送る血管に問題があると、脚の痛みどころか足の壊死から切断につながる可能性もあります。女性でいえば、静脈系の鬱滞(静脈の流れが滞り、血液がたまっている状態)が起こっているかたが多い。下肢静脈瘤が原因で脚に鬱滞性皮膚炎が起きたり、それがさらにひどくなると脚の潰瘍まで重症化することもあります。非常に治りにくい傷なので、未然に防ぐことが大切なのです」
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